風呂釜は灯油焚きでした。灯油タンクをセットし、マッチで火を付けて…火力が著しく弱いので、夏でも1時間、冬は2時間は待たないと焚き上がりません。灯油の残量チェックを忘れると、「いざ入ろうと思ったら水風呂」ということにもなります。
平日は出勤前に灯油を補充して浴槽に水を張っておき、帰宅するや否や即、風呂釜に火を入れるのが日課でした。
ある休日、夕食後にのんびりとオペラを鑑賞していると、眠くもないのに目が霞んできました。いえ!目が霞んでいるのではなく、部屋に霞が掛かっているのです。異臭もしてきました。不審に思って襖を開けると…
隣の部屋に煙が充満しています。煙の向こうにはチロチロと赤い火が!
「火事だ!」まるで映画(バックドラフト?)のようです。
火元は風呂場のようで、風呂釜が火に包まれ煤が猛然と噴き出しています。
かなり動揺しました。しかし一瞬後には立ち直り、沈着冷静に、しかしすばやくタオルを濡らして風呂釜に被せ火を消し止めました。火事にならず良かった、本当に良かった…
(後で考えると、煙が凄いだけで、火が少し釜からはみ出しているだけだったようです。)
消火後、呆然と立ち竦む私の目の前をたくさんの黒い煤がユラユラと降下して行き、それを呆然と眺める虚脱感、虚無感は今でも鮮やかに蘇ります。(掃除をしなくてはなりません…)
灯油焚きの風呂釜は、定期的に煙突掃除をしなければならないのでした。煙突掃除を怠っていたので煙突が詰まり、不完全燃焼ガスが横に漏れて火と煙が噴き出したという訳です。
これに懲りて、それからは月に一度は手を真っ黒にしながら煙突掃除をするようになりました。煙突掃除もやってみると結構、楽しいものですが、当然の事ながらすぐに飽きて苦痛になります。
飽きた頃、何かにつまずき風呂釜に激突!私の体は丈夫でしたが風呂釜はいよいよ不調になり、なにかというと煙を吐いたり、立ち消えたりするようになりました。こうなると煙突掃除も効き目がありません。
大家さんに「どうも調子が悪い」と訴えると「自費で修理してくれ」(今考えると賃貸なのに変ですね)、修理代も馬鹿馬鹿しいのでだましだまし使い続け、無事(でもないか)退去の日を迎えたのでした。
たつのこ邑の我が家に薪ストーブを設置するしないで騒いだ挙げ句、結局、設置しなかったのは、この事件がトラウマになっているのかもしれませんね。
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